奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

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書店で見つけ、電車の中と帰宅後で一気に読んだ。

 木村の家から岩木山山麓のリンゴ畑までは、歩けば二時間近くかかる。クルマもトラクターも売り払っていた。エンジンのついた乗り物といえば、スクラップ屋から1000円で買った原付バイクと、2000円で買ったトラクターがあるだけだった。壊れて動かなくなっていたのを買って、例によってエンジンを修理して使っていたのだ。そのポンコツの原付バイクとトラクターは、妻と年老いた両親に使わせていた。リンゴ畑まで往復4時間の暗い道のりを、木村は毎日のように歩いて通った。

「これだ、これだ、これが答えだとな。あの山中で、踊りだしたい気分であったな。ほんとにバカだからさ、自分が何のために山に登って来たかも忘れて、ロープのことなんてすっかり忘れてよ、今度は駆け足で山を下りたわけだ。一刻も早く自分の畑の土の状態を見て、何をするか考えたかったからよ。下り坂だからな、一時間ちょっとで麓の畑まで下りたんでねえべか。それでも、夜中近くになっていたな。あんまり私の帰りが遅いもんで、美千子が子供を連れて畑まで様子を見に来ていたよ。心配していたんだろうけど、私があんまり意気揚々としているもんだから、狐につままれたような顔をしていたな」

冒頭に引用されている詩。

危険から守り給えと祈るのではなく、
危険と勇敢に立ち向かえますように。

痛みが鎮まるのを乞うのではなく、
痛みに打ち克つ心を乞えますように。

人生という戦場で味方をさがすのではなく、
自分自身の力を見いだせますように。

不安と恐れの下で救済を切望するのではなく、
自由を勝ち取るために耐える心を願えますように。

成功のなかにのみあなたの恵みを感じるような卑怯者ではなく、失意のときにこそ、
あなたの御手に握られていることに気づけますように。
ラビンドラナート・タゴール「果物採集」より 石川拓治訳)